打ち合わせの時間より少し早く到着したので、車を止めて道ばたを散策する。
厚い雲間から朧気な太陽が顔を出し、温かい光が足下に届きはじめる。
やさしい風が初夏の訪れを伝える。
奈良を愛した歌人、会津八一の歌
「はつなつ の かぜ と なりぬ と みほとけ は
をゆび の うれ に ほの しらす らし 」
(初夏の 風となりぬと み仏は を指のうれに ほの知らすらし)
これは、「初夏の風になったのだと、み仏は、小指の先で感じておられるようだ」というような意味で、弥勒菩薩の指先の美しさに、初夏の風を感じた様子を会津八一が上手く表現している。
私はこの歌が好きで、初夏になるとよく思い出す。
中宮寺弥勒菩薩を見たときの歌と言われているが、み仏の優雅な小指の先に初夏の風を感じる感性はすばらしい。
豪放磊落で有名な会津八一が歌人であるとき、限りなく繊細でたおやかな感性を持っている。
私もカメラを持ったときくらい、八一のような感性を持ちたいものだ。
若い頃に出会った会津八一の歌が、いま心に染み渡る。
遷都1300年祭で賑わっている奈良で、会津八一の名を聞かないのは不思議だ。
鈍い空の色もまた美しい。