私は大阪で生まれ育ったので、花木に囲まれたふるさとを持たない.
大阪の下町の狭い路地を抜けている夢を見ることがある。
いつもの道を歩いていると小さな小川が流れ、岸に黄色い花の咲く優しい風景に出会う。
よく知っているようで、知らない、既視感のある風景だ。
実際には眼にしたことのない風景かもしれないし、早春に東北を旅したときの風景かもしれない。
この夢を見るとき、私は小学生の格好をいていることが多い。
もしかしたら私の原風景かもしれない。
カメラを持って歩いていると、ふっと懐かしいと感じる景色に出会う。
私は住んでいたこともない景色を懐かしいと感じ、シャッターを押す。
陶淵明の「桃花源記」が好きで、この話を読むたびに、一度桃源郷を訪れてみたいと思う。
人はその心の深部に、それぞれの桃源郷を持っているのだろう。
それが時々夢の姿を借りて、少し荒んだ現実を慰めに現れてくれるのかもしれない。



