いよよ華やぐ

桜も盛りを迎え、命を限りに咲き誇っている。

この時期、岡本かの子さんの

「年々にわが悲しみは深くして いよよ華やぐ命なりけり」

という歌を思い浮かべる。

半世紀も生きていると楽しみよりも、哀しみと親しくなるようだ。

咲く花よりも、散る花に心が寄り添う。

哀しみが昇華されて透明になるとき、命の華やぎを感じるのかもしれない。

 

この歌の作者は、49歳でこの世を去った。

小説が認められ、これから華やごうとした時だった。

かの子を桜に例えれば、染井吉野よりもしだれ桜の風情に近いような気がする。

SDIM6248

P1030865

SDIM6167

モノクロームフィルム

数年ぶりにモノクロームのフィルムを買った。

懐かしいNEOPAN400を2本。

使うかもしれないし、使わないかもしれない。

ブロニーサイズと呼ばれるフィルムは、6x6サイズで12枚撮影できる。

たった12枚。

デジタルカメラでは考えられない数字だ。

フィルムを手にしながら、撮影場所を考えている。

フィルムのにおいを思い出す。

シャッターを切ると、光がフィルムにしみ込む。

ハロゲン化銀が、光を捕まえ化学反応を起こす。

光と科学の力で、フィルムに像が定着される。

若い頃、暗室にこもっては、毎日現像をしていた。

手に残る定着液のにおい。

手にしむ込む現像液の色。

1本のフィルムが遠い思い出を紡ぎ出す。

 

ゆっくりとした時間、ゆっくりとした空間で、

このフィルムを使いたい。

12枚の一期一会。

 

P1030781

ウェストレベルファインダーには、左右の像が反対に写る。
ピントグラスに光が滲む。
眺めているだけで美しい。

P1030810

保留する力

決めつけることと、決めつけないことなら

決めつけないことは、遙かに難しい。

きれいと言わない

おいしいと言わない

いい人と言わない

嫌な人と言わない

決めつけた瞬間に、その他のことが失われる。

言葉にした瞬間に、その他のことが失われる。

自分を決めつけない。

自分を思い込まない。

心の中で感じたことを

心の中で感じた自分を

感じたままで心の隅に置いておく。

そうすると、ふっとした時に、

思いもしなかった言葉とともに、

新しい世界と出会える。

判断力よりも保留力が

人を豊かにする。

 

SDIM6083