森へようこそ

川上村へ大径木を見に出かけた。

山道をゆっくりと登る。

事前に注意を受けていたのだが、道の途中にヒルのいるところがある。

立ち止まったり、ゆっくりと歩くとヒルが長靴を登ってくる。

その速度は思っているよりも速い。

泉鏡花の高野聖にヒルにおそわれる話が出てくるが、それを思い出してぞっとした。

だがこのヒルも自然なのだ。

森を美しいという、これも自然。ヒルの動きも自然。

私は森を見て、ヒルを遠ざける。

自分の都合で自然を分別しているのだと改めて知った。

 

美しい川上の森。吉野には珍しい原生林の雰囲気がある。

優しい光が森に閉ざされている。

 

 

 

 

 

蓮と雨と

友人を近くの蓮畑に案内した。

小雨が降りしきり、雨粒か蓮の葉に溜まっていく。

水滴の重さに蓮の葉が傾き、下の葉へ、田んぼへと水が流れていく。

そこかしこで、葉から葉へと水の流れる音が聞こえる。

 

蓮の花が咲いている。

満たされている。

紡ぐ言葉を見いだせない。

言葉が消えるとき、静けさが生れる。

 

 

 

 

 

 

 

子供達と過ごした3日間

小学生の高学年を対象に、吉野の自然に触れてもらいながら、商売を体験してもらおうというイベントがある。

このイベントに参加して今年で3年目。

身近に子供のいない私が、どっぷりと子供達と過ごすとても不思議な2泊3日の小旅行。

地元吉野地方の商工会青年部員他、のべ100名程度の人員が関わり、子供達と一緒に吉野を移動する。

私はこのイベントの間に、子供達に商売の仕組みを説明し、実際に商品を購入、販売をする。

 

子供のいない私には、「子供」ということがよく分からない。

どう接していいか分からない私は、最初ずいぶんと悩んだのだけれど、

その答えは子供達自身がが教えてくれた。

彼らは子供ではなく、「小さな大人」なのだということを。

それから私は、彼らに大人に接するように対応した。

ただ難しい言葉をやさしく、丁寧に、そして座学よりも、実際に経験することを多く取り入れた。

「小さな大人」はいつも一生懸命に考え、一所懸命に行動する。

どの商品が売れるか、どのようにしたら売れるかも彼らなりに考え行動する。

 

彼らを見ていると希望なのだと思う。

生きる力なのだと思う。

このイベントがあるたびに、私は子供が好きになっていく。

彼らの歩む未来は、私たちが歩んだ未来よりも困難かもしれない。

でも彼らはその未来を歩いて行くのだろう。

彼らが取り除くことが出来ないような困難を置き去りにしないこと。

これが、今の私達に出来る精一杯の事のような気がした。

 

 

台風の雨が窓をたたく。Chet Bakerのヴォーカルが心地よい。

3日の余韻がゆっくりと溶け出していく。

子供の頃、私は一日でも早く大人になりたいと思っていた。

大人になると旅立てるような気がしていた。

まったく違う世界に行けるような気がしていた。

大人になって、それは気のせいだったことを知った。