生まれ育った路地を歩くと軽いめまいを覚える。
路地の奥に見覚えのある家があり、知らない人たちが話をしている。
周りの風景が呼吸でもしているかのように、膨張したり収縮したりしている。
私が歩いたという痕跡は何処にもない。
私がここにいたという痕跡は何処にもない。
ただ私の記憶があるだけ。
しかし記憶に確かなものなど何もない。
黄昏時に知らない町を歩いてると、
ふっと、私はもういないのだという思いに捕らわれる。
自分がこの世にいないのに、それが分からなくて彷徨っているような気がする。
この路地も私には、もう現実では無いのかもしれない。
写真は、シャッターが切られた瞬間に、風景が入れ替わる。
同じ風景を二度見ることは出来ない。
その場所に、同じ自分を留めることは出来ない。
写真は記録ではないのかもしれない。
記憶の凝縮かもしれない。