望まない思い

天川村のお客様の所へ、打ち合わせに出かけた。

昨日が東吉野村から吉野町。

一昨日が明日香村での仕事だったので、思えば仕事先の多くが観光地だ。

 

今日は、朝から雪交じりで、太陽が出ることもなく、冷え込みの厳しい日になった。

吉野では雨でも、天川は雪交じりに違いない。

まして標高の高い洞川温泉では、積雪があるかもしれない。

予想した通りに、洞川温泉は雪が積もっていてほとんど人影もない。

標高が高く水のきれいな洞川温泉の旅館には、蚊を防ぐ網戸がない。

 

訪ねた先は老舗の旅館で、大峰参りの人たちを大切にしている。

信仰の人をもてなす旅館には独特の雰囲気がある。

磨かれた廊下、昔ながらのガラス。

洞川温泉には、人を持てなすこころが残っている。

落ち着いた時間が佇んでいる。

 

洞川温泉に来るときは、いつも天川弁財天に立ち寄る。

人気のない境内をゆっくりと歩く。

天川弁財天は、静かな時間と気配に包まれていた。

御賽銭を入れて、言葉が浮かんでこないことに気づいた。

ただ手を合わせて、静かに立ち去った。

今日は、祈ることもせず、願うこともなかった。

境内を歩きながらふっと思った。

何も望むものがない状態は、もっとも幸せな状態かもしれない。

それにしても、今日はなぜ、何も言葉が出なかったのだろう。

不思議だ。

帰り際に微かに光が差し込み始めた。

帰り道、峠では、梅が咲き始めていた。