そこに在れば

ゆっくりと月が昇る。

光が引くように消え、夕闇が静寂と共に訪れる。

もうすぐ、窓に薄明かりが灯る。

月がそこにあるだけで、日常が美しい物語に変わる。

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使われなくなった工場の片隅に花が咲いている。

汗を拭きながら談笑する人の幻が、浮かんでは消えていく。

花を横切る人が、軽く微笑む。

花がそこにあるだけで、人は日常を忘れることができる。

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あなたがそこにいるだけで、幸せを感じる人がきっといる。

バリ島に行けなくて

たっぷりの日差し、ゆっくりとした時間。

闇と光の誘い。

時々、バリ島に憧れる。

萩原朔太郎がフランスに憧れたほどではないけれど、

バリへ行きたしと思へども
バリはあまりに遠し
せめては 新しき草履を履きて
きままなる旅 にいでてみん

ということで、いつものようにご近所を散歩。

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バリ島での撮影のレッスンを兼ねて、光と遊ぶ。

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野生動物の出現に思わずシャッターチャンスを逃す。
(出演 わが家の愛犬エルクのしっぽ)

う~ん、良い日でした。

地蔵盆

下市町での用事を終わり、大淀へ帰るために千石橋を渡った。

橋のたもとに人が集まっていて、団扇がせわしなく動いている。

通り過ぎながら眺めていると、輪の中に女性の僧侶がちんまりとお座りになっている。

剃髪のあとも青々とした、小柄で高齢の方のような気がした。

炎天の下、お地蔵さんに一生懸命に念仏を称えている。

その方を気遣って高齢の女性達が一生懸命に扇いでいるのだ。

この優しさに包まれた景色を、正岡子規ならなんと俳句にしたろうか。

 

気をつけて車を走らせれば、あちらこちらで地蔵盆の準備が進んでいる。

 

大阪の下町で育った私は、夏休みの最後を飾る大きなイベント、地蔵盆が大好きだった。

夕暮れになると天秤棒の真ん中に太鼓をぶら下げて、リズムを打ちながらゆっくりと町内を練り歩く。

これは高学年の仕事で、私はついて歩くだけだった。

この太鼓を合図に小学生達がぞろぞろとお地蔵さんに集まり始める。

私たちの目的は、もちろんお地蔵さんにお参りすることではなくて、その後の映画とおやつだ。

会場は、いつもは洋裁学校として使っている場所で、私たちの遊び場のすぐ近くだ。

油引きのにおいのする部屋は、普段見たことのないミシンなどがなり、秘密基地のようで楽しかった。

映画と言っても、小さな映写機から、急拵えで貼られた白いシーツに写すだけなのだが、何故か眩しくて夢の世界のようだった。

映画の内容は、孫悟空などのマンガが多くて、もう内容も思い出せないないが、中国の故事にちなんだものが多かったような気がする。

この地蔵盆が終わると夏休みもあと少しで、学校のプールも終わり、セミ取りからトンボ取りへと私たちの遊び方も変わるのだった。

 

仕事を終えて外に出ると、夏の名残の空と心地良い風が吹いていた。

こんな日は、どんな仕事も楽しい。

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