小樽へ向かうフェリー

夜の港にフェリーが着岸する。
フェリーターミナルから、微かに人のざわめきが聞こえる。
乗降する車がタラップを踏む音が響き、フェリーのエンジン音が港に響いている。

遥かむかし、高校2年生の私は、このフェリーで小樽へと向かった。重油の匂いと、振動、湿った風だけが思い出された。
当時の記憶があまりに不鮮明なので、思い出すことを諦めて、ゆっくりと離岸するフェリーを眺めていた。

たましいの宿り木 ツクシシャクナゲ

大台ヶ原のシャクナゲの色は

おぼろげに緋い

肉体から離れたたましいが

宇宙に還るまえのひととき

花に身を寄せ

惜別の想いに涙しているかのようだ

慟哭ではなく、懺悔でもなく

ただ、ただ懐かしむ

新緑の梢に溶け出す想いは

大気に広がり粒子と消える

石の上ではコミヤマカタバミが

空を見上げて微かな風に揺れている