慌ただしいままに日を送っていると、気が付けばもう五月。
新緑が芽吹き、山々は精気に溢れている。
数十年前なら自転車で峠越えのプランを練っていたかもしれない。
昔の自転車を引っ張り出してきた。
グリスやオイル切れ、ゴム系統の交換などですぐに乗ることは難しそうだ。
また自転車に乗って旅をしてみたいと思った。
峠の頂上で、水筒からお茶を飲む自分を想像してみた。
汗ばんだ背中を吹き抜ける心地よい風。あの木の下で昼食にしよう。
おにぎりを二つほど食べれば、後は少し昼寝をしよう。
急ぐ旅ではないのだからと自分に言い聞かせる。
今度自転車で小さな峠を登ってみよう。
しかし、すぐには行けそうにないから、今日は、自転車を掃除しよう。数十年の錆を落とそう。
自転車のことを考えているとフッと萩原朔太郎の詩が思い出した。
五月は人を旅人にするようだ。
旅上
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。